高木良多講評
東京ふうが 平成22年 秋季号「墨痕三滴」より
お茶の水句会報304号~306号より選
真葛原風の荒ぶる吉野みち 積田 太郎
吉野みちは天智天皇からの難を避け、大海人皇子(のちの天武天皇)が逃れたところ。「風の荒ぶる吉野みち」がそれを象徴。
三大特徴
・2009年の日々の出来事をメモ
・判りやすい俳句を一日一句
・24節気、72候の全ての例句(本邦初)
あとがきより
私の一日一句は全て書き下ろしのためはっきり言ってそれほどの句ではないかも知れぬ。それでも思いつくままに書いた句には計らいの無い単純さがあって捏ね繰りまわした複雑さは無いように後で閲して思うのである。
春耕叢書 平22ー1
頒 価 1500円
2010年9月21日 印刷
2010年9月25日 発行
著 者
蟇目良雨
発行所 春耕俳句会
印刷所 共信印刷
ブックデザイン ワタリマミ
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お茶の水俳句会から秀句をご紹介します。
第306回 2010年10月4日(月) 於:文京区民センター
兼題:葛、月見、水澄む
わが家の上にばかりや秋の雷 高木 良多
能登荒れの波そのままに葛嵐 蟇目 良雨
玄奘の超え行きし山夜半の月 石川 英子
開催日時:平成22年11月1日(月)
午後3時締切 (午後2時より入室できます)
開催場所:文京区民センター 2階 (2B会議室)
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屋根獅子の膝をのり出す鰯雲 岸本マチ子 [海程・WA]
「俳句」2010年9月号
シイサアは、沖縄県などにみられる伝説の獣の像。建物の門や屋根、村落の高台などに据え付けられ、家や人や村に災いをもたらす悪霊を追い払う魔除けということである。獅子が訛ってシイサアとなったと言われるがこの句の手柄は屋根獅子と書いてシイサアと読ませたことだろう。空にもっとも近い屋根獅子が鰯雲に近づくように膝を乗り出しているように見えたと表現したことで俄然面白くなってきた。こうした遊び心が句を楽しくさせてくれるのである。写生句であるが「膝をのり出す」と見たところに作者の俳諧の主観がこめられている。
過日、神保町の古書店で氏の著書『海の旅 篠原鳳作遠景』を買って読んだが<しんしんと肺碧きまで海の旅 鳳作>を代表句としてわずか三十歳で死んだ篠原鳳作の短き波乱に富んだ一生を迫真の筆致で描いていたことに驚いたことを思い出した。
菜種殻うはなり打ちによかりけり 大石悦子 [鶴・紫薇]
「俳壇」2010年9月号
菜種を採ったあとの菜種殻はよく燃えるので松明の穂先に使われ火祭や左義長に欠かせないものである。また柔らかで且つしなやかなために箒にも使うことがある。この菜種殻の箒は蛍狩にも使われるのでその柔らかさが想像できるだろう。
一方、「うはなり打ち」とは中世にあった風習で、離縁された先妻が後妻(うわなり)のところへいじめに行くことを言う。別れてひと月もたたない内に再婚してしまった前夫への仕返しなのだがそのとばっちりを後妻が受けるという図式。
予告して押しかけるのであるが女ばかりで行くにしても木刀や竹刀などを持ってゆくので襲われた後妻の方は驚いたことであろう。作者は木刀や竹刀の代わりにこの菜種殻を用いてあげたらいいのにとつぶやいているのである。
「菜種殻」と「うはなり打ち」を結びつけて句が俄然面白くなったが、歴史ものに素材をとって蕪村的世界が描けたのではないだろうか。
葛の葉のふたごころあるざはめきか 角谷昌子[未来図]
「俳壇」2010年9月号
葛の葉が秋の季語になっているのは「葛の葉」が風に翻って白い裏を見せる「裏見」が「恨み」に転じて秋のあわれさ と結びついたからである。
葛の葉のうらみ貌なる細雨(こさめ)かな 蕪村
など季語の内容むき出しの使い方である。
掲句は真葛原の発するざわめきの様子を「二ごころある」ざわめきと看做したところが非凡である。凡人には決して見えてこない把握の仕方であると感心した。見えないものを見るように努めるのが詩人の仕事。
お茶の水俳句会から秀句をご紹介します。
第305回 2010年9月13日(月) 於:文京区民センター
兼題:胡麻の花・風の盆・秋意、 席題:赤とんぼ・おしろいの花
おしろいが咲き裏町の灯り初む 高木 良多
てのひらを月に返して風の盆 蟇目 良雨
終バスの遠退く尾燈虫の闇 荻原 芳堂
虚無僧の尺八湿る秋意かな 鈴木大林子
吹き晴れし沼のほとりや赤蜻蛉 乾 佐知子
風の盆果て水音の戻りけり 花里 洋子
痛み止めゆるやかに効き秋意かな 井上 芳子
胡麻の花乾き切つたる大地かな 長沼 史子
茶柱のゆるがぬ今朝の秋意かな 石川 英子
帯決めて連を繰り出す風の盆 元石 一雄
東大寺まで奈良坂を油照 積田 太郎
お茶の水俳句会から秀句をご紹介します。
第304回 2010年8月21日(土) 於:文京区民センター
兼題:処暑 ・ 病葉 ・ 晩夏
青竹の節の白さよ処暑を過ぎ 高木 良多
似顔絵を売るアラブ人晩夏光 鈴木大林子
夕映えの一筋伸びる処暑の山 元石 一雄
開催日時:平成22年10月4日(月)
午後2時半から4時半
開催場所:文京区民センター 2階 (2B)
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編集人が語る東京ふうが22号
「東京ふうが」編集人より
俳句というささやかな文芸に携わっていると、その人物から想像できない作品が生み出されることに驚くことがある。例えば、久保田万太郎のテカテカした金貸しのような風貌から人生の哀しみを詠う句が迸り出るのは実に不思議である。
作品鑑賞もよいが人物鑑賞もおもしろい。そんな面から「東京ふうが」を鑑賞していただきたい。
蟇目 良雨
目 次
- 1 名句逍遥
- 欣一俳句の鑑賞(1) 高木良多
- 良多俳句の鑑賞(1) 蟇目良雨
- 3 作品七句と自句自解「夏季詠」 ►ちょっと立読み
- 6 墨痕三滴(俳句選評) 添削:高木良多
- (お茶の水句会報302~303号より選んだもの) ►ちょっと立読み
- 7『水郷の風土』余聞 高木良多
- その11 ー 印旛沼の龍神 [ 中 ] ►ちょっと立読み
- その12 ー 印旛沼の龍神 [ 下 ]
- 11 ニーハオ中国俳句の旅 <8> 蟇目良雨
- 「晩秋成都」 ►ちょっと立読み
成都/杜甫草堂/都江堰/武侯祠/三蘇祠/楽山/川劇/「陳麻婆豆腐店」/
付録・上海蟹を食べる
- 23 東京大空襲体験記 銃後から戰後へ <14> 鈴木大林子
- 本官への道 ►ちょっと立読み
- 24 曾良を尋ねて<5> 乾 佐知子
- 曾良 ー 伊勢への旅立ち ►ちょっと立読み
松平定政と大智院 /深泉良成禅師と大智院 /伊勢永島藩主 松平康尚
- 27 ミニエッセー「旅と俳句」
- チベットの風になって<2>(連載4回) 石川英子
- [ 5 ] ポタラ宮 [ 6 ] ガンデン・ゴンパ [ 7 ]ジョカン寺にまつわる伝説
►ちょっと立読み
- 31 会友招待席(会友句鑑賞)
- 「鑑賞と添削」 高木良多
- 33 後記 高木良多
- 33 東京ふうが歳時記 [ 夏 ] 荻原芳堂選
- 34 句会案内
(つづきは本誌をご覧ください。)
高木良多講評
東京ふうが 平成22年夏季号「墨痕三滴」より
お茶の水句会報302号~303号より選
筒鳥や崖に張りつく御師の家 荻原 芳堂
御師の家とは山岳宗教の祈祷師の家のことであろう。険しい崖に張りついているような住居のあたりに筒鳥が啼いている。筒鳥はぽんぽん鳥ともいう。実景の活写。
都会の郷愁と風雅を俳句とエッセーに掬いとる俳句同人集団