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『2009 一日一句集』蟇目良雨著

『2009一日一句集』蟇目良雨著

三大特徴
 ・2009年の日々の出来事をメモ
・判りやすい俳句を一日一句
・24節気、72候の全ての例句(本邦初)
あとがきより
 私の一日一句は全て書き下ろしのためはっきり言ってそれほどの句ではないかも知れぬ。それでも思いつくままに書いた句には計らいの無い単純さがあって捏ね繰りまわした複雑さは無いように後で閲して思うのである。
春耕叢書 平22ー1
頒 価 1500円
2010年9月21日 印刷
2010年9月25日 発行
著 者   蟇目良雨
発行所  春耕俳句会
印刷所   共信印刷
ブックデザイン ワタリマミ
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第306回:葛・月見・水澄む

お茶の水俳句会から秀句をご紹介します。
 
第306回 2010年10月4日(月) 於:文京区民センター
兼題:葛、月見、水澄む
 

わが家の上にばかりや秋の雷   高木 良多

能登荒れの波そのままに葛嵐   蟇目 良雨

玄奘の超え行きし山夜半の月   石川 英子

 

鑑賞「現代の俳句」(27)

屋根獅子シイサアの膝をのり出す鰯雲  岸本マチ子 [海程・WA]

「俳句」2010年9月号

 シイサアは、沖縄県などにみられる伝説の獣の像。建物の門や屋根、村落の高台などに据え付けられ、家や人や村に災いをもたらす悪霊を追い払う魔除けということである。獅子が訛ってシイサアとなったと言われるがこの句の手柄は屋根獅子と書いてシイサアと読ませたことだろう。空にもっとも近い屋根獅子が鰯雲に近づくように膝を乗り出しているように見えたと表現したことで俄然面白くなってきた。こうした遊び心が句を楽しくさせてくれるのである。写生句であるが「膝をのり出す」と見たところに作者の俳諧の主観がこめられている。

 過日、神保町の古書店で氏の著書『海の旅 篠原鳳作遠景』を買って読んだが<しんしんと肺碧きまで海の旅 鳳作>を代表句としてわずか三十歳で死んだ篠原鳳作の短き波乱に富んだ一生を迫真の筆致で描いていたことに驚いたことを思い出した。

 

菜種殻うはなり打ちによかりけり 大石悦子 [鶴・紫薇]

「俳壇」2010年9月号

 菜種を採ったあとの菜種殻はよく燃えるので松明の穂先に使われ火祭や左義長に欠かせないものである。また柔らかで且つしなやかなために箒にも使うことがある。この菜種殻の箒は蛍狩にも使われるのでその柔らかさが想像できるだろう。
 一方、「うはなり打ち」とは中世にあった風習で、離縁された先妻が後妻(うわなり)のところへいじめに行くことを言う。別れてひと月もたたない内に再婚してしまった前夫への仕返しなのだがそのとばっちりを後妻が受けるという図式。

 予告して押しかけるのであるが女ばかりで行くにしても木刀や竹刀などを持ってゆくので襲われた後妻の方は驚いたことであろう。作者は木刀や竹刀の代わりにこの菜種殻を用いてあげたらいいのにとつぶやいているのである。
 「菜種殻」と「うはなり打ち」を結びつけて句が俄然面白くなったが、歴史ものに素材をとって蕪村的世界が描けたのではないだろうか。

葛の葉のふたごころあるざはめきか 角谷昌子[未来図]

「俳壇」2010年9月号

 葛の葉が秋の季語になっているのは「葛の葉」が風に翻って白い裏を見せる「裏見」が「恨み」に転じて秋のあわれさ と結びついたからである。

葛の葉のうらみ貌なる細雨(こさめ)かな 蕪村

など季語の内容むき出しの使い方である。
 掲句は真葛原の発するざわめきの様子を「二ごころある」ざわめきと看做したところが非凡である。凡人には決して見えてこない把握の仕方であると感心した。見えないものを見るように努めるのが詩人の仕事。


第305回:胡麻の花・風の盆・秋意

お茶の水俳句会から秀句をご紹介します。
 
第305回 2010年9月13日(月) 於:文京区民センター
兼題:胡麻の花・風の盆・秋意、 席題:赤とんぼ・おしろいの花
 

おしろいが咲き裏町の灯り初む   高木 良多

てのひらを月に返して風の盆    蟇目 良雨

終バスの遠退く尾燈虫の闇     荻原 芳堂

虚無僧の尺八湿る秋意かな     鈴木大林子

吹き晴れし沼のほとりや赤蜻蛉   乾 佐知子

風の盆果て水音の戻りけり     花里 洋子

痛み止めゆるやかに効き秋意かな  井上 芳子

胡麻の花乾き切つたる大地かな   長沼 史子

茶柱のゆるがぬ今朝の秋意かな   石川 英子

帯決めて連を繰り出す風の盆    元石 一雄

東大寺まで奈良坂を油照      積田 太郎

 

名の木の芽ひとつひとつに雨雫

高木良多講評
東京ふうが 平成22年春季号「墨痕三滴」より
お茶の水句会報298~301号より選

名の木の芽ひとつひとつに雨雫  蟇目 良雨

 

名の木の芽はたとえばしだれ梅のような大切にされている庭木の芽なのであろう。そこへ雨が通りかかったので、ひとつひとつに雨雫がたまっている写生の句、とり合わせの句ではない。「一物仕立ての句」となっている。とり合わせの句とくらべて難しいとされているが、努力すれば名句が生まれる。


東京ふうが 21号(平成22年 春季号)

編集人が語る「東京ふうが」21号

「東京ふうが」編集人より

21_cover神田駿河台下に呱々の声を上げた「お茶の水句会」が茫々300回を迎えました。俳誌「春耕」顧問・俳人協会評議員高木良多先生を中心に、都会の郷愁を掬い取って俳句に結実させようと四半世紀を怠らずに続けてまいりました。節目節目で記念誌を発行して参りましたが300回記念としてホームページを開設して皆様とともに風雅を求めてゆくことになりました。
東京の下町に転がっている俗から風雅の誠が見出せたら編集人として望外の喜びです。

蟇目 良雨

目次

1 作品七句と自句自解「春季詠」 ►ちょっと立読み
4 墨痕三滴(俳句選評)    添削:高木良多 ►ちょっと立読み
(お茶の水句会報298~301号より選んだもの)
4 『水郷の風土』余聞     高木良多
その9 ー 印旛沼の龍神 ►ちょっと立読み
その10 ー 根津権現
7 ニーハオ中国俳句の旅 <7>     蟇目良雨
シャングリラ:雲南の旅 ►ちょっと立読み
「雲果てるところ 中国雲南省 麗江、中甸(ちゅうでん)への旅」
麗江/納西族と東巴文字の街麗江/麗江の古城街/茶馬古道のポプラ並木/長江第一湾と石鼓鎮/虎跳峡/玉峰寺/牦牛坪/玉龍雪山/東巴博物館/東河村の納西族/中甸/松賛林寺(チベット寺院)/納帕海
17 東京大空襲体験記 銃後から戰後へ <13>     鈴木大林子
三途の川からUターン ►ちょっと立読み
18 曾良を尋ねて<4>     乾 佐知子
曾良 ー 伊勢への旅立ち
有賀峠/曾良と松平忠輝 [ 1 ] ►ちょっと立読み/曾良と松平忠輝 [ 2 ]
21 ミニエッセー「旅と俳句」
チベットの風になって<1>(連載4回)     石川英子
入国からポタラ宮まで ►ちょっと立読み
[ 1 ] チベットの風になって
[ 2 ] 海の底だったチベット高原
女の仕事、男の仕事/主食のツァンパ/町の人の暮らし
[ 3 ]チベットへ
[ 4 ] バルコルの散策
24 会友招待席(会友句鑑賞)
「鑑賞と添削」     高木良多 ►ちょっと立読み
26 「お茶の水俳句会」「春耕駿河台句会」の歩み その4
(218回より300回まで) 解説:井上芳子(「春耕」同人)
28 後記 高木良多
28 追記 高木良多
28 句会案内
29 「お茶の水俳句会」「春耕駿河台句会」の歩み 一覧 記録:長沼史子
38 「東京ふうが」年表      高木良多 編