蟇目良雨講評
東京ふうが 平成28年冬季新年号「墨痕三滴」より
お茶の水句会報368回〜369回より選
能登人はおほかた無口鰤起し 深川知子
よく言われるのは、みちのくの人や日本海側の人は無口だということ。寒いから、風が強いから口を開けるのが面倒であるという理屈である。
津軽、秋田で「ゆさ」「どさ」「け」という短い言葉がある。どこに行くの?が「どさ」。お湯に行きますが「湯さ」。食べなさいが「け」。じつにシンプル。作者は能登に行ってこれに近い言葉の体験をしたのだろう。鰤起しが鳴り渡っていて恐れる作者に対して能登人は何も言葉をかけてくれなかったのだろうか。因みに作者はおしゃべりな小倉人。
蟇目良雨講評
東京ふうが 平成27年秋季号「墨痕三滴」より
お茶の水句会報365回〜367回より選
始まりも終りも静か松手入れ 松谷富彦
松手入れには凡人の知らない世界があるのだろう。手を付ける前に長考している頭領の姿をよく目にする。人の寿命以上に長生きする松をどのように成長させていくか遠大な構想をもって手入れしている。終始静かで哲学的でもあるのは松に相応しい。
蟇目良雨講評
東京ふうが 平成27年夏季号「墨痕三滴」より
お茶の水句会報362回〜364回より選
大夏野割って来たりし牧草車 乾佐知子
大夏野の中を分けてはっきりとやってくるのは牧草車。牛馬の飼料にする夏草を刈ってそれを運んでくる。草はロールにされて保管される。揚句は大夏野を刈り取りながらロールに仕上げる高級な牧草車かも知れぬ。新しく刈った草の筋がはっきりと見えてくる。
「墨痕三滴」佳句短評
蟇目良雨による俳句鑑賞。(お茶の水俳句会会報396号以降)
俳句鑑賞「墨痕三滴」
高木良多、蟇目良雨による俳句鑑賞。(お茶の水俳句会会報395号まで)
蟇目良雨講評
東京ふうが 平成27年春季号「墨痕三滴」より
お茶の水句会報359回〜361回より選
春星をつなぐ鎖のあるごとし 鈴木大林子
春の夜空は少し濁っている気がする。星座も冬の夜空に見えるすっきり感がなくなる。そして良く見ると互いが連結しているように見える。これを鎖のあるごとしと捉えたのであるが、春の星だから言えることである。
編集人が語る「東京ふうが」41号
「東京ふうが」編集人より
5月に杉田久女研究者の坂本宮尾さんの講演を伺ったが、坂本さんは「虚子が久女の句集出版を認めなかった理由が、調べれば調べるほど分らなくなってきた」という。
「東京ふうが」で考察している「寄り道 高野素十」はまさにこの辺りにメスを入れつつあると思うが如何。
蟇目良雨
目 次
1 |
名句逍遥 |
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欣一俳句の鑑賞(20) |
高木良多 |
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良多俳句の鑑賞(20) |
蟇目良雨 |
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2 |
作品七句と自句自解「春季詠」ちょっと立読み |
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6 |
墨痕三滴(俳句選評) |
鑑賞:蟇目良雨 |
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(お茶の水句会報359~361号より選んだもの) |
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8 |
「高幡高麗氏の残像」 |
高木良多 |
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峰岸純夫先生の講演要旨- |
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12 |
八千草日記 |
高木良多 |
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(11) 金柑の花ちょっと立読み |
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(12) 篝火草(かがりびそう) |
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13 |
【特集】若月瑞峰と高橋由一ちょっと立読み |
高木良多 |
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15 |
寄り道 高野素十論 < 12 >ちょっと立読み |
蟇目良雨 |
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26 |
曾良を尋ねて < 24> |
乾 佐知子 |
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関係諸藩と伊奈家との関わり ほかちょっと立読み |
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29 |
旅と俳句 新涼のハルビン・大連紀行<3>ちょっと立読み |
石川英子 |
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34 |
第2回 「遊ホーッ」 |
洒落斎 |
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漢字の部首ちょっと立読み |
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35 |
ふうが添削コーナー会友招待席ちょっと立読み |
高木良多 |
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36 |
「お茶の水俳句会」の歴史 |
井上芳子編 |
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44 |
「東京ふうが」の歴史年表 |
井上芳子編 |
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61 |
あとがき |
蟇目良雨 |
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62 |
句会案内 |
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表3 |
東京ふうが歳時記 < 20 >【 春 】 |
編集部選 |
蟇目良雨講評
東京ふうが 平成27年冬季・新年号「墨痕三滴」より
お茶の水句会報355回~358回より選
初場所や華やぎてゐるひとところ 井水貞子
大相撲の一こまに何を切り取るのかは中々難しい。どの場所でも粋筋のお姐さんがいて華やぐところがあるが、さて、初場所は特に華やぐところが著しいと言っている。静かな読み振りが成功した句。
蟇目良雨講評
東京ふうが 平成26年秋季号「墨痕三滴」より
お茶の水句会報352回〜354回より選
矢継ぎ早夜這星とぶ波の上 堀越純
流れ星を夜這星と言い換えたことで物語性が出た。「這う」という言葉の持つニュアンスが低い夜空を次々に流れる星とうまく響きあった。海辺でもよく、大きな湖畔の景色としてもいろいろ鑑賞がすすむ。
蟇目良雨講評
東京ふうが 平成26年夏季号「墨痕三滴」より
お茶の水句会報349号〜351号より選
百合化して蝶となりしや書庫に蠋れ 高木良多
季語は百合であるが珍しい使い方。百合の花が蝶に見えたということであるが、書庫の暗がりに活けられた百合が、ふと見た瞬間に蝶のように見えた驚きが一句の眼目。書庫の措辞に作者の生き様がよく出ている。
高木良多講評
東京ふうが 平成26年 春季号「墨痕三滴」より
お茶の水句会報347号~348号より選
秩父路に電車の響き桃節句 元石一雄
秩父は山が連なっているので電車が通るたびにその反響が鳴りわたってくるのである。
そのひびきの中で秩父の生んだ著名な俳人であった金子伊昔紅・兜太父子を偲んでいるのであろうか。今日は桃の節句の日であるからである。
都会の郷愁と風雅を俳句とエッセーに掬いとる俳句同人集団